予告どおり海のプチ虫について報告をひとつふたつ。
去る2021年夏、次の楽器のデザインにオホーツクヘラムシの実体が必要になり、
海ムシ捕り網を持ってわざわざ北海道は釧路まで赴く取材を敢行しました。
越境自粛呼びかかるコロナ禍にも関わらず、くまお君やレッパンちゃんを連れてです。
憶えていらっしゃいますか? ばかやろう!
とはいえ真夜中の釧路港で勝手にガサ網は不審。冗談ぬきで逮捕連行され鬼クソ叱られますので、
行政や管轄全てに事前相談、東京モンの分際がそういうことしても多少は勘弁してもらえる、
千代ノ浦マリンパーク釣り護岸のみでヘラムシ探しを実行しました。
おかげさまで無事に目的のオホーヘラのくそデカいのを捕獲。次回作の資料を得た次第ですが、
遠征の成果はヘラムシだけではなかった。
まったく目的外に小さなウミセミ(海のダンゴムシ)がむちゃくそ採れたのよ。
とは、この ↑ 、ヘラムシの周りの菜の花の種みたいな粒々なんですけどね、
…むッちゃくそ、採れたのよ。
サイズ感はちょうどタバコシバンムシくらい。…余計ワケわからんか。
2日目の夜などもう勘弁しろやってくらい異様にこればっかし採れた。
護岸一帯をせいぜい2~3時間ばかり掬ってこのぶんだとえげつない数が泳いでるはずだ。
採ったばかりで驚いているのか妙に泳ぎがぎこちなく、逆立ちの頭打ち、うまく進めてない。
ちょっと下手すぎる気もするが気のせいかな…
で、これ当初は全部シリケンウミセミのメスと思った。だとしたら全国の海岸に普通やん。素敵やん。
わざわざ釧路まで出張る必要ない種だので、かわいそうだので、すぐ海に返してやるつもりでした。
でもせっかく来た旅の思い出にホテルの部屋で拡大撮影がてら眺めて過ごすまいかと、
宿へ持ち帰り、部屋明かりの下で確認したところ…
… ん?
ざわ・・・
ざわ・・・
ざわ・・・
ざわ・・・ ざわ・・・
うわ、うわ、なんだなんだ?
この手のウミセミは様々な色合いや紋様をもつものがセオリーだのに、
全員がクロゴキブリの1齢幼虫みたいな白黒模様ばっかりに決まっているうえ、
何ら強制せず山盛りのおしくらまんじゅう状態に集合するじゃないの。
なんというか…サイコロ1000個振ってピンゾロ(全部1)だったら怖いだろ? そんな気分。
リアル・すみっコぐらし
もちろん他種も採れば似たような集合は起こすはずですが、あれはもっと個々に独立独歩な印象。
この互いに頼り合うような鬼盛りはちょっと顕著すぎやしないか。
ハッ?! 瞬間、私はざわ…と今後を直感し、震えを抑えられなかった。
( …嗚呼、やだよー、楽器にシフトする踏ん切りに釧路へ来たのよー、
今そんな場合じゃねえのよー、余計な仕事が増えちまうよー、
そもそも小型ウミセミ小さすぎて興味わかねえんだよー… )
でも見つけっちまった以上やるしかあるめい。
言ったろ、こうやって虫テメェ側からレポート書けって俺に訴えてきやがる。
とは、ええ、幾度となく目を疑いながら、
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1)基質上に群がりこれほど 密な凝集 を形成するのはいったいなにか
2)かつ、この個体数にあって 揃いの濃淡タキシードをお誂え はいったいなにか
3)そのくせ、 泳ぎがツツツツ…と妙にドン臭い のはいったいなにか
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これら所見は全国に普通なシリケンウミセミが示す行動とはやや異なるものと判断、
酸素ブクブクかけて生きたまま東京。当研究室でよくよく解剖調査しましたところ、
このウミセミは2010年に知床で発見され新種記載されて以降、
まるくそ研究が進んでこなかった謎の種、
Dynoides cf. bicolor Nunomura, 2010
「ソメワケウミセミ」の外部形態に最も近似するとの結論に到達。
このほど俺のこつぶ論文第4弾となります、
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日本甲殻類学会 和文誌CANCER 31巻(2022)
『釧路市千代ノ浦マリンパークより得られた等脚目甲殻類ソメワケウミセミの分類学的問題点と飼育技法』
Taxonomic problems and rearing techniques of isopod crustaceans Dynoides bicolor Nunomura, 2010, collected from Chiyonoura Marine Park, City of Kushiro, Hokkaido, Japan
【J-STAGE抄録】https://www.jstage.jst.go.jp/article/cancer/31/0/31_e20/_article/-char/ja/
【直pdf】https://www.jstage.jst.go.jp/article/cancer/31/0/31_e20/_pdf/-char/ja
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の提出に相成り至りましたことを報告申し上げまする次第にて候。
なんだシリケンか~つまんねえわ~と早合点して海に戻しちまわねえで良かったな。
五嶋先生・布村先生・知床財団が仰るウミセミはひょっとしてこれかしら?の提起とともに、
採集に至った経緯、条件、分類学的不安定やむなき現状をそのままに報告することで、
興味ある理学生はこのネタ進めたらどうなんだコラと白衣の胸ぐら掴んで呼びかけるものです。
オープンアクセスpdfですのでどなた様もダウンロード戴けますよってに。
ただし仔細分類をズバリ言い当ててるかどうかは判断材料が足らん。
現在のところTHEソメワケと捉えて概ね差し支えないかと考えてはいますが、
真にソメワケか否かを断言するためには外部形態のほか系統学的な検証も必要で、
見分けのつきづらい近似種が後に見出され、相互に比較され、否定される可能性も大いにございます。
このとき今回の標本がソメワケに非らずとなれば、類似の既知種の報告が見当たらないため、
未記載=新種となり、余計たいそうな散らかしごとになってしまうのです。
触角から第1〜4胸脚がやや短くシリケンウミセミと異なる印象を呈する
それに今回たまたま釧路で採れたが、おらだの海でも採れたべよ~とか言って、
より広域な生息が今後確認されるかもしれません。ったらそれで構わないんだ。
異論反論、大歓迎。「論拠a~fに基づけば川﨑(2022)の判断は誤りと考えられる」どんとこい、
間違ってても全く恥ずかしくないです、ぜひ議論しましょう!のスタンス。
第2腹肢内肢から伸びる交尾針(写真右、精子差し渡し器官。ペニスとは別に1対が存在し、本属オス成体では特に伸長し折り返すとのこと)
あっ、不明瞭しょうがないんだぞ、賭博じゃねーんだから。
そうして本種研究が一歩また一歩進むことになるんだから結果オーライじゃもん。
学問とは本来、紆余曲折の過程をいうんだよ。他人の褌で知識マウントじゃなくてね。
この話どのくらいの話か実感してもらえないと思うので例えますと、
そうさな、いわばウミセミ研究界における、さかなクンのクニマス。…余計ワケわかんねえわな。
クニマスは人間が勝手に殺して勝手に絶滅認定し、勝手に再発見し勝手に騒いでいる状態で、
実際にはわりあい居たんじゃないか?と勘繰られる一方、誰の手柄やら判断の正誤云々よりも、
多くの議論が交わされ愛された記録(=研究史)の方がずっと有意義なのだと私は思います。
ソメワケも同様、これが何者であるか、とくに若手有志の意見を待ちたい。
ってか北海道の虫なんだし北海道の研究機関が頑張って白黒丁半つけてくれよな。
例えば北海道大学、或いは北海道大学、ときに北海道大学あたりが進めてくれたら嬉しいんだけど。
豊かな自然ルールルルルなんて北国ごちとっと、東京モンにしてやられ、共産圏に攻め入られっぞ。
ルールルルル
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つきまして今回の発見が割り込んだおかげ…ええもう丸クソご苦労さまさまで、
俺の楽器の予定がまんまズレてすっかり遅延しておりますことをお詫び申し上げます。
いま総メンテを順次行っているがさすがに手ぇ回ってねえよ。
サーランギーは弾いてないと弦がギチギチバツン!!って切れちゃうんだよね。
ワリコミウミセミ(新称)でも提唱しないとワリに合わない気分です。
だので今回のソメワケ報告をもって、
小型甲殻類の学術研究をしばらくお休みすることにしました。
掘れば掘るほど謎が出るのできりがなく通常業務へ支障が出ますわけよ。
学会も退会準備(ソメワケ出現のため辞め時を逸して滞納会費の清算)を進めているところです。
なんか来年度から値上がり決まっちゃったし…。よっぽど何か用事があれば、また。
第一、なんでインド楽器弾いて作って直して羊も懐く造形作家が甲殻類について提唱すんだ?っつの。
第二に、そもそもなんで俺が提唱せにゃならいでか?っつの。
第三に、せにゃらなんとして、なんで提唱出来るんだ?っつーのよ。
ご専門の博士各位の仕事ではないのか。
その点は皆様どうぞ心よりご驚嘆のもと、偉大なる吾輩のご指導ご鞭撻にご隷従頂くとともに、
ひとえに俺様唯一人の多大なるご活躍のおかげさまのお世話さまの賜物さまでございますことを、
恭しく甲斐甲斐しく平身低頭のうえ、豪勢なる手土産持参で土下座の深謝を強要したく存じます。
そして以降毎年涙ながらに故郷の名産品を吾輩宛てにのし付きで贈答なさい。名物にうまいもの無し!
…元々、よっしゃ、10年間、等脚目(ワラジムシ目)の勉強に本腰をと腹を括って始めたこと。
10年やったらまた芸術分野に帰還すべくリミットを決めてやってたんです。
その間にせめてひとつくらい新発見に出会えたら嬉しいなって。
あれからおよそ10年。
こうも未知な分野とは思っていませんでした。
既存の図鑑や論文に博学を衒う(てらう)のではなく、海の虫たちと直接に対話を繰り返し、
大学も博物館も知らない秘密を虫からたくさん教わり、可能な限り皆様にも還元して参りました。
私個人も、や~これ高校時にもし理系の道=たぶん人畜共通寄生虫症の分野を選んでいた場合、
こんなふうに調査やら執筆やら発表やらに追われる毎日だったのかもしれないな~と、
もうひとつの人生体験が叶った気分に浸りつつ楽しく研究を進めてきました次第です。
一方で学術界の悪しき、とくに権力的な側面のあれこれを見聞きして、
いやなものだな、浸かって漬かっていずれ心が腐れてしまうなと残念に思うことしきり。
嘘を書いても他人を蹴落としても博士業にしがみつき生きるか死ぬかの瀬戸際に直面して、
ふざけ倒したエッセイ調なんぞやってられないね。
ええ、ええ、そうでしょうよ。
「生鮮な」みたいなコラム報文は本来、幾多の業績と資金を誇り著名な弟子を育てた大先生が、
多少おちゃらけ余裕気味のお愛想に書き、誰も文句の言えないお愛想笑いを誘う性質の体裁なんです。
それをお前誰やねんが書き、専門誌に載り、爆笑のうちにJ-STAGEダウンロード1位なんて、
権威ある学術分野においては到底 “許されない” 話。
しかしこの事例こそ《既存の枠に収まらぬ独歩者だからこそ拓ける世界が在る》という証左なのだ。
望遠鏡でようやく天の世界が見えたように、顕微鏡でようやく雫の世界が見えたように、
ピースケ鏡を覗いて初めて見ることになった世界について、“許されない” 分野とやらに何が出来ようか。
人を喰ったような口調の中に科学的未見や秘められる時、凝り固まった厳格気取りに何が出来ようか。
やれ、論文は決して著者の一人称で書いてはならない?
こんなもの書いたら指導教官に叱られてラボをクビになる?
追放されてキャリア崩壊して首を括るしかなくなる? …ばかもの、逆だろう。
自身の人間存在的哲学をもって教官を叱るくらいの気概が欲しいものである。
自らをルールで縛ってしまうから取り逃した事象が現るや、ルールを守れと文句を垂るのです。
どんな大物の名誉教授が激怒して許さなかろうとも、ヒメスナホリムシは生きた人肉を食うのですから。
…なんつって、プチ海虫の生態以上に私はそのこと(=生き方や考え方)を表現してきたつもり。
とはいえ学術界撹乱もたいがいにしてそろそろ現代甲殻類学にお暇を頂戴し、
私の本領であります音響造形とその表現世界に戻りたく候。
それでもどうせ生物の形が作品に滲み出てきちゃうんですけどね。
既存の道具を習って使って褒められてなんてのは万年追随者のやることですので。
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追伸1:
ざわ・・・ ざわ・・・
同居人様の理解さえ得られれば、ご家庭でクソ簡単に飼えます。
飼育海水にブクブクかけた小水槽をそのまんま冷蔵庫の野菜室に収納し、
餌に干しヒジキ投げ入れとくだけだ。そうして通年4℃前後の暗室を保つのである。
詳しくは論文に書いてあるからこぞって試してお母さんにみっちり叱られましょう。
で、驚くなかれ。驚くことに2022年9月現在、この方法のままでまだ生きてんのよ。
注)紙コップの記述は撮影日と、時系列の証拠に現時点でなければ知る由ない時事ニュース
こりゃ驚いた。去年の夏に採ってきたウミセミが、秋→冬→春→夏を過ぎ、
この秋まで野菜室の中で生きてるってどういうこと?
数がだいぶ減りましたのは致し方ないとして、おかしくね?おかしくね?
季節っきりの虫じゃないってことだろ。もはやシリケンウミセミの見間違いではない。
トビイロツノゼミの越冬かっつの。…余計ワケわかんねえわな。
さらにはオホーツクヘラムシ。デカいのは先日死んだのでアルコールに浸けてますが、
2cm程のがまだ幾つか生きてるのと、なんとまあ冷蔵庫ん中で勝手に、オホーッ、
赤ちゃん産まれたよ。元気にピンコピンコ泳いでいます。
つまりオホーヘラ飼育も野菜室ヒジキの術が有効なのであろう。
…まさか虫ども、この様子をまた論文にしろってか?
いやだぞ絶対書かんもんからな。テメェらについてはテメェら型の弦楽器を作るまでだ。
このとおり、楽器を本懐の取材に今回は余計な尾ひれが付きすぎ。
従って飼育は継続、文献仕事はひと休みです。
追伸2:
言うのすっかり忘れてたわ、今更も今更で申し訳ない。
「生鮮な」原文の英題の種小名んとこ脱字あったの、ごめりんこ。
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誤:Excirolana chitoni
正:Excirolana chiltoni
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チルトニのLの棒が1本抜けてチトニになっちゃってたッハッハ、チトニ! てへぺろ。
出版直後にあれッ?! キャ~ン♪とのけぞったけど世に出ちゃったらもう修正きかんのよ。
なお本文すぐ後より正確に書けてます。ご引用時は直さず原題ママでご容赦くださいませ、ルールなので。
よかったらVOWに投稿してね。ギンギヲギンにさいけさい。
ま、何ら影響なし。エンタテイメントとエンターテインメントの違い程度。
弁当の箸袋ん中につまようじ入ってっか入ってねえかの違い程度。
ゆかいな飼育事例として皆さんに伝われば本望さ、内容も内容だし。
人間の肉体のみならず文字まで食べてしまうとは思いもよりませんでした。
それに等脚目甲殻類の膨大なミステリーに比べりゃ些細のうちにも入らない。
とりわけ形態と系統の不明瞭な関係など、挑む誰しも果てしない物語を見ヒャエルエンデ。
当該ヒメスナ1種だけでも世界中に広く分布とされるものが真に1種とは限らないし、
えのすいの巨大グソクでさえ台湾人に言われるまで気づかなかったぐらいだもんな。
…今日の話さっぱりワケわからんでしょ。ごめんね、謎を謎のままに。